「三万でどうですか」って云え

昼下がりの鈍行
二人の男子中学生が俺の前に座ってる
なんとも不釣合いな二人だ


左の奴は細身できれいな顔をしてる
大人ぶって髪を伸ばしたところで
まだ肉のつかない体が自然と発してしまうあどけなさには勝てない


問題は右の奴だ
こいつは人間でないような顔をしている
鉄の板に薄いゴムを張って三箇所切れ目を入れたような顔
眼も口もパックリ開いていて、人工的で工夫がない
人間なら男の顔だが、実際男かわからない
制服を脱がして裸にしても性器なんてなさそうだ
だけどこいつはたぶんゲイ
さっきから俺のことをちらちら見てる


そんな眼じゃなくて、もっといやらしい眼で俺を見ろ
そして云え
「三万でどうですか」って


そしたら思いきりぶん殴ってやる
今の変な顔がもっと変になるまでぶん殴ってやる
次の駅で俺は降りる
手についたおまえの血だけ一緒に降ろしてやる
おまえは血だらけで倒れたまま終点まで行け


それでも俺が降りるとき、まだいやらしい眼で俺を見ろ
そして云え
「三万でどうですか」って